役者は夜になった
nonya
役者は
媚びてしまった
目の前の毒リンゴを
食べてしまった
役者が
安っぽい悦楽で
身体中を痺れさせている間に
観客は
優しい嘲笑を浮かべつつ
足音もたてずに去っていった
慌てて
毒を吐き出そうとしたが
出てくるのは毒ではなく
リンゴばかりだった
役者は
初めて自分の糖度を知った
ほどなく
役者の顔と身体と性根は
青黒く変色していった
やがて
項垂れたまま楽屋に戻る頃には
とっぷりと暮れてしまった
誰も
役者には気づかない
彼自身が夜になってしまったのだから
星の虫喰い穴と
月のカギ裂きから
人の夜を垣間見ながら
役者の咽び泣きは霧になった
報いなのだ
あまりにも言葉を弄び過ぎた
哀願嘔吐欺瞞 恐怖虚栄軽薄
孤独 嫉妬 執着
焦燥呻吟 憎悪戯言
恥辱慟哭鈍痛悲鳴不安
閉塞 暴発
未練無視憂鬱
劣情歪曲
人の影が夜の闇に触れたとたん
発せられる途方もない悪臭を
さんざん嗅がされた揚句
東の空が微笑み始める頃には
役者は
きれいさっぱり忘れ去られた
もちろん
来る日も来る日も
それは続いた
役者は
夜になったのだから
*
ところで
今宵は新月
月は縫い合わされた
流れ星だって?
ふんっ
泣いても無駄だよ