午後と冬
木立 悟






蝶を呑んだものの肌に
蝶が現われ
真昼の終わりまで
話しつづけている


小さな音の
まわりだけの冬
鳥は追う
羽を忘れる


石の径の影
曇のなかの声
動けない音
長く細い 指に押され


青空が建物のうしろから
径の上の雨を見ている
ほぐれゆく 
水の緒


常に冬の街がひろがり
かろうじて差し出された灯りには
灰とむらさきとこがねと緑
片目と頬を染めてゆく


河口 叫び 砂の文字
鉛と白の樹 
花の前にもうしろにも
巨きな巨きな 水の疑問符


斑の十字
囲まれた土地
棄てられたしるし
蒼と蒼の波


砂を区切る
命ではないもの
かすかな舟が
冬をすぎる


影と花
曇のはざまを映す水
そこにはないもののように
そよいでいる


いつのまにか真新しい土
いかずちを記し
手を焼かれ
立ちつくす


石灰と木の階段
柱から柱へ動く指
手放したはずの風景が
流れに流されることなくゆらめいている


むらさきからむらさきへ
半身から半身へ飛び終えても
冬は冬を巡り
冬に至り 冬をすぎる


枯れた空に沈みながら
鏡は鏡のうしろを見ている
中庭の空 廃園の空
銀に触れる長い指


短い雨を歩む鬼
白と黒の血のにおい
冬の原 そのむこうもまた
冬の原


指は去り
午後は残る
空に座すもの
冬を冬に撒いてゆく































自由詩 午後と冬 Copyright 木立 悟 2013-04-12 11:28:05
notebook Home 戻る