失格三昧
ただのみきや
わたしは失格者
子供の頃は子供として失格
いまは大人として失格だ
夫として
父親として
男として失格なのだ
当然女としても
地獄に堕ちる者として失格
天国に入る者として失格
社会人として失格
世捨て人として失格
神経症の殺人者として失格
脳天気な屠られる羊としても失格
夜明け前の音楽として失格
時間に差し挟まれた沈黙として失格
役に立つ七つ道具として失格
秋の寒空にぽっくり逝く詩人として失格
土砂降りの雨として失格
眩しそうに振り返る誰かとして失格
この国を狙うミサイルのロゴとしては失格だ
星屑で飾った平和集会のポスターとしても失格だ
颯爽と登場する裏切り者として失格
焼け焦げた殉教者の遺体として失格
飛び込む蛙のガギグゲゴとして
時雨れる蝉のザジズゼゾとして
やわらかく熟した欲望の発音として
巡回説教者が振りかざす貴金属バットとして失格だ
割烹料理屋の切り裂きジャックのように
歯科衛生士の口裂け女のように
枯れ木に立小便する酔っぱらった鼻裂け爺さんのように失格だ
病室のベッド脇に残された蒼い罌粟とはなれず
白く覆われた棺の上の一本の紅い薔薇ともなれない
一粒の転がるらっきょうとして
はっとして見つめる花豆として
昔の人として
今の人として
未来人として失格だ
獣としても失格だ
妖怪変化としても失格だ
枕としても失格だ
シェルターとしても失格だ
毒薬の小瓶としても失格だ
どこかに消えた税金のように
いかさまカードみたいに失格だ
太宰君と仲良く人間失格だ
失格という言葉に酔いしれる
失格者としても失格なのだ