ショッピングカート
灰泥軽茶

日雇いのアルバイトで一日中駅前の交差点で
新築マンションの案内プラカードを持つ仕事をしたことがある
蛍光色のジャンパーを着て
太陽の光と影の動きを肌で感じ
人の流れをじっと眺める退屈なバイトだった

一人の老婆はとても違和感のある
佇まいでショッピングカートを押しながら
虚空を見つめていた

サラリーマンは皆サラリーマンで
主婦は皆主婦で
大学生は皆大学生であることがはっきりわかるのに
その老婆はとても肌艶良く
滑らかな外国語と日本語を喋りそうな異邦人のようだった

少し肌寒くなり夕日の色が街を覆い始めた頃
古びたマンションの屋上に
先ほどの老婆が現れたかと思うと
ショッピングカートを背にしょい
ひょいとジェット噴射を浴びせ
宙に浮きうまく身体をコントロールしながら
貯水槽に入っていった
そして葉脈を流れていくように光が発散し
くるくる回転しながら
空高く舞い上がり消えていった

私は折りたたみ椅子を片づけて
お疲れさまでした
ごくろうさまでしたの言葉とともに
これからは
ショッピングカートに
もう少し注意を向けておいたほうが良いなと
思いながら駅へと歩いた








自由詩 ショッピングカート Copyright 灰泥軽茶 2013-04-11 23:09:48
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