小さき者
まーつん

 よく切れるナイフを手に取り
 一粒の砂に 切りつけようとしたが

 どうしてもできない

 手の平は血まみれになり
 その上に置いた砂は
 無傷のまま 涼しい顔で
 寝息を立てている

 このナイフは
 竜を屠り
 独裁者を殺め
 羊達を脅かす狼を
 数多く 葬ってきた

 なのに
 砂浜から掬い上げた
 この 取るに足らない
 ちっぽけな 砂の一粒を

 どうしても殺せない

 鋭い刃先に切り刻まれた
 私の掌に抱かれて
 すやすやと
 夢を見ている

 まるで
 血の海に眠る
 無垢な 赤ん坊のように

 見ているうちに
 愛おしくなった私は
 滲みだす血糊ごと
 ぺろりと 舐めとってしまった


自由詩 小さき者 Copyright まーつん 2013-04-11 21:43:04
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