大誤殺峠
和田カマリ
父は執念深く、母の敵の妖怪変化を追っていた
けもの道も途切れ、茨に裂かれながらも、なお小高い山を登っていた
いつの間にか、ボロボロのシャツは血だらけになっていた
上りきると峠には家族風の3匹の妖怪がいた
後ろ向きの彼等、だけど父には判った
奴らこそはあだ討ちの相手、そしてその実態は・・・
先の尖ったビニール傘を脇に抱えた父は人間ダーツと化し
ターゲット目掛けて、ラット(脱兎)のごとく突っ込んで行った
赤い逢魔ヶ刻、峠に木霊する鵺の鳴き声
一人刺した、嫌、だめだ三人とも刺さないと
こいつ等は三人で一人、三位一体なのだから
えいえいえい、尋常に勝負せよ
後ろ向き逃げ惑う奴らを二人三人、続けて刺し貫いた
ついに本懐を遂げた父
荒々しく髪の毛を掴んでグイと手繰り寄せた
「かあちゃん。」
それはすでに殺されたはずの母
あわててもう一人チェックしてみると
「息子よ。」
血まみれの俺がいた
だとしたらもう一人は
「わしじゃ。」
「わしがわしを!わしの家族を皆殺しにしたのじゃ。」
きりがないので誠心誠意お詫びする事にした父
傘を広げると、パッと担ぎ上げ大見得を切った
「アイヤ、すまぬわいや〜。」
「成田屋」
客席から声がかかった
俺たちも立ち上がると、次々に睨みを利かせ始めた
満員のお客さんは、もう大喜び!
新春大歌舞伎の新作、「大誤殺峠」
初日は大成功のようだった