春に移る
田園

燦燦たる結露を薄くなぞり
私の生命について少し考える

父と母の愛撫で私は生まれ
還暦になる父にそっと 赤
それはねぎらいと希望の証

私は今日は給料を貰い
今月も頑張ろうと
きっとどこかで同じことを考える人と
時間を共有している

時間は少ない
とても生命に追いつかない
けれど太陽 沸き立つ葉脈
美しい世界に悠久の存在を確認する
(それは私ではない何か)

完成された人形と
不完全は園児の組み合わせ
ほほえましいのは
それがあまりにも儚いから
いづれ完成された人形は捨てられ
園児は愛に惑う


さんざめく あふれる
そんな日常を贈れたら
あなたは私を見てくれますか
まるで旧知の友のように
笑っていただけますか

結露した窓はゆっくりと溶け
変わらずそこにある椅子に座り
動かなくなった私に
次の場面を強要する

1を拾うために
残りを捨て

1を探し求める私は
強く頬を打たれる

「他を見るには人生があんまりにも無いんですよ」
そう言い訳を述べる私を
“その人”は決して許さない

沼地に潜む死体達を避けて進めと
“その人”は言う
私は恐れる
しかし知っている
その死体は私自身
恐れる事のない過去達

過去を踏みつけ足場とし
瞬間に過ぎていく今を直視する事も出来ない私に
未来を見ろと

凍結されれば永久か
しかしもう霜はおりない
春爛漫
思考回路が上手く働かない私にも
春が来てしまった

愛でもあり
不幸でもある
春という季節

そこに私は落とされた
父と母に抱きしめられながら


自由詩 春に移る Copyright 田園 2013-04-05 14:51:19
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