よわいという
かんな


よわいという
ところにきみとわたしの真実という
嘘っぽい現実が
隠されているので探してみてください。

という手紙を
ゆうべの食卓できみに差し出した
手が
春だというのにつめたくて
思いの他冬もがんばっているのだなという
そうきみの手が

生姜の炊き込みごはんに
はまってしまっていて
さむいからね
ジンジャー
あたたまるといい
こころがふたつ

こんな時節は
つい春めいた恋やら桜やらのことを
書き連ねてしまうけれど
そういえば
きみとわたしの出会いは夏であったなどと
色濃い対比を思い浮かべる
こともあるのだ

海辺での語らいは
もっぱら
美術館の話であったなどと記憶していて
わたしがきみの顔を見つめよう
その眼の内に
何かを探そうなどとすると
ぷい
といった風に海に吸い込まれてしまう

キスをした
接吻などと表記するとなんだか
趣深く
それでいて清楚であるな
などとわたしは考えてしまうけれど
ことばというものは
その場の雰囲気と
その事柄に適したものを
別に使う必要などないとおもう

だからベンチに座り
欲のまま
キスをした
めがねに絡んだ髪の毛の一本一本を
顔を見つめるのには
少々邪魔だ
というようにゆっくりゆっくりと
払いのけていた
そうきみの手が

よわいというはなし
きみの思ったまま解釈したらしいので
わたしも
そのままに飲み込もうとおもう

つぎの日の朝であったか
探しものがやっと見つかったと
階下から声がするので
パジャマ姿のまま階段を下りていく
そのわたしの手を
そうきみの手が
しっかり握って離さずに
そのままわたしをぐっと引き寄せ
にこりと笑みを浮かべながら
すらりとして言うのだった

ほら
見つかりましたよ。





自由詩 よわいという Copyright かんな 2013-04-02 15:23:20
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