ネギ侍
佐野権太

葱。
葱をみている
きざみ葱を頼まれたが
青い部分ばかりで一パックこの値段とは
いかにも法外である

ひと振りの葱を取り、握りを確かめる
銘刀「下仁田」ほどではないが
なかなかの白鞘である
腰に帯びてレジに向かう


殺気。
向かいから
葱をぶらさげた、敵
一見、無造作にみえる下段の構えに
隙はない
即座に足場を測る
跳べるか
しかし狭い通路では
敵も思うようになるまい
立ち合いを所望なら
この場で輪斬りにしてくれよう


振動。
舌打ちして胸元を探る
(なに、猫砂?
(少し重すぎではないか
(む、わかった
(しかし、拙者今から、立ちあ・・・
相変わらず女房殿の斬撃には
容赦がない


眼前に敵。
体を入れ替え、すれ違う
佩刀に目を光らせる子の背を押すように
いそいそと母親がいく
ふむ、子連れであったか
命拾いをしたな
柄から静かに手を離す


表に出ると
すっかり春の陽気だ
猫砂の袋を担ぎなおし
手ぬぐいを取り出して
月代をぬぐう
かすかな洗剤の香り
のあとに
さわやかな葱の微風


何ごとであろう
彼方から
よろず屋の主人が
あたふたと追いかけてくる







自由詩 ネギ侍 Copyright 佐野権太 2013-04-01 11:43:40
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
武士道