向こう側の人
うみこ

まだら猫助がゆく
いつもの道
誰かが落としたパン菓子
甘い出来事を
拾い集めた夕暮れ

街がほどけてゆく
線路の上で
夕陽が犬釘に染みている
色違いの銀色を見分けるように
不思議な電車がすれ違う

忘れられた日々が擦り切れて
レールの上で金切り声をあげている
けたたましい音と共に
奇妙な電車が通り過ぎ
少し沈黙したあと
ゆっくりと遮断機が上がる

遠い街で
僕は探している

懐かしい香りや
目印があるわけでもなく
ただ、迷子になっているみたいに
ずっと探している

僕には応えられない出来事に
気持ちまで立ち止まって
赤信号を眺めてる

交番の前で
善人のふりをしている
こんなものや
あんなものがなければ
僕はすぐにでも
赤信号を渡って
向こう側の人に

だけど
僕の邪魔をする

あんなことや
こんなことのせいで
立ち止まっている

悪いことをしたことも
そんなにはないから
交番の前で
善人のふりをしている

僕が渡れぬ信号で
君はもう向こう側
向こう側の人

冷たい風がふいた
そのとき気がついた
空っ風団地の真ん中で
君も一人で泣いていた


自由詩 向こう側の人 Copyright うみこ 2013-04-01 03:21:31
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