花魚
くめ




「あるところに花喰いという、花を喰う者がおりました。
年はまだ若く、どこかの城から逃げてきたとの噂もございました。

花喰いは澄んだ池の上に花のなる木を植えました。
その身重たさからぽとぽとおちる花は波紋をえがいて水中へ沈みます

すると、すいすいと泳ぎだします
そうして落花は花魚となります

花魚とはまことに優美な生きもので、
浮いてきては良い香りがするし、
泳ぐ時にひらひらと靡く鮮やかな花弁は、幻のように麗しいのでございます

けれどその命は短く、
小魚類に喰われるか或いは、花喰いが食べてしまうのでございます
その小魚というのも、色はなく、どうやら眼で確認するのは難しい存在であるようです

花魚のたくさん泳ぎまわるその池はこの世のものとは思えぬ、例えるなら無邪気でうつくしい夢幻です

私も一度はそこへゆきましたが
不思議なことに、如何にしてそこへ行ったか、どうしても思い出せないのでございます

お話できるのはこれくらいでしょうか。花魚の愛らしさは見物でした。あなたさまもきっと辿り着けますよう。では」




自由詩 花魚 Copyright くめ 2013-03-30 22:04:30
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