海弁
たもつ

 
 
昼休み、お弁当を開けると
中には凪いだ海があった
これはどうしたことだろう、
と電話をしても妻は出ない
それどころか、
海の中から聞き慣れた着信音がする
海が見たい、と言っていたのは
このことだったのだろうか
妻が泳げないのを思い出して
慌てて助けようとするけれど
水を飲もうにも
海を飲み干せるわけもないし、
飛び込むには
弁当箱はあまりに小さ過ぎる
名前を呼んでも
妻の名前とは程遠い、
記号のような気泡ばかりが口から出て
自分の方が海に沈んでいることに
うっかり気づいてしまう
 
 


自由詩 海弁 Copyright たもつ 2013-03-26 21:21:01
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