フライ
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簡単に空を飛びたいなんて歌う
アーティスト達に嫌気が差していた
風になびいて倒れそうな広告旗
己の現状を投影させながら

口ずさんだのは遠い日の歌

これといった目標も無いまま漠然と
成功したいとただただ願っていた
自分は頭が良くて才能もあるなんて
根拠も無い自信を疑ったこともなくて
社会に出てからは色々と思い知らされた
自分は一般常識も無い子ども同然だと
例えるならば激流に放り出された稚魚
動物みたいな欲求だけは膨らむばかり

毎晩のように同じ夢を見る
渡せなかった制服の第二ボタン
陽射しが強すぎて蒸発してしまった
忘れもしない18の夏の日

9回裏のツーアウト
バッターボックスに立つ少年
打ち上げた球は弧を描いて
ファーストフライで試合は終わった
やり直せればと何度も思った
やり直せない月日は過ぎ去って
あの時ボールを取られなければ
何かが少しは違ったのだろうか

揚げ物を食べるのが辛くなってきた
その頃から誕生日も祝わなくなって
友人達の誘いを断り続けたら
周りには誰一人いなくなった
格下の人間だと思っていた奴らが
結婚して子どもが生まれたとか
風の噂で耳にするたび僻んでは
蝿みたいに醜い自分に嫌気が差した

馬車馬のように働き続けて
僅かばかりの給料でやりくりして
ただただ通り過ぎるだけの毎日に
取り戻せないものを沢山落として

小さい頃の卒業文集を開いたら
将来の夢はパイロットだったそうだ
巨大な飛行機をこの手で操縦して
世界中を旅したいって書いてあった
このまま何の活躍も出来ずに死んでいくなら
今すぐにでも電気椅子で処刑して欲しい
そんな口先ばかりで何も出来ないまま
変わらずにこれからも逃げ続けていくのか

9回裏のツーアウト
バッターボックスに立つ少年
打ち上げた球は弧を描いて
ファーストフライで試合は終わった
やり直せればと何度も思った
やり直せない月日は過ぎ去って
あの時ボールを取られなければ
何かが少しは違ったのだろうか

自分という人生の舞台に
今にも落ちそうな垂れ幕に
スポットライトが当てられたなら
なんて理想を掲げたままで
高く打ち上げられたフライ
打ち取られると分かっていても
あの時走り出していれば
きっと少しは違ったのだろうか


自由詩 フライ Copyright 1486 106 2013-03-25 23:43:48
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