ゆくえ
木屋 亞万
なつかしさの種が食道をくだり落ちて
心臓部の琴線に抵触した瞬間に
桜の花火がぱっと開いた
ゲル化した私が弾け飛んで
半透明の世界は天気雨の日と同じだけ輝いた
街行く人には乱反射する光でしかない
とびきり大きな車に乗って旅をする
磨ききった窓からみる青空は
裸眼で見るより澄んでいる
カーラジオから雲が孕んだ光の産声
手を振る君の眩しそうな目に
いつまでも白い背中を映して欲しい
髪の毛を染めるのは
卵の殻を塗る程度の効果しかないと
感謝が当然を前にして
薄らいでいくのを横目に
風は生ぬるい湿り気の膜とともに
何億年も地球を回り続けている
どこかで何かを間違えて
君とは出会えなかった人生を
あざ笑うように暮れていく夕陽と
落ち込みすぎて水たまりになった私
明日の朝には蒸発し終えて
大きな雲と合流するよね