ゆくえ
木屋 亞万

なつかしさの種が食道をくだり落ちて
心臓部の琴線に抵触した瞬間に
桜の花火がぱっと開いた
ゲル化した私が弾け飛んで
半透明の世界は天気雨の日と同じだけ輝いた
街行く人には乱反射する光でしかない

とびきり大きな車に乗って旅をする
磨ききった窓からみる青空は
裸眼で見るより澄んでいる
カーラジオから雲が孕んだ光の産声
手を振る君の眩しそうな目に
いつまでも白い背中を映して欲しい

髪の毛を染めるのは
卵の殻を塗る程度の効果しかないと
感謝が当然を前にして
薄らいでいくのを横目に
風は生ぬるい湿り気の膜とともに
何億年も地球を回り続けている

どこかで何かを間違えて
君とは出会えなかった人生を
あざ笑うように暮れていく夕陽と
落ち込みすぎて水たまりになった私
明日の朝には蒸発し終えて
大きな雲と合流するよね


自由詩 ゆくえ Copyright 木屋 亞万 2013-03-23 15:38:44
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