準急列車が出発します
そらの珊瑚

日曜日の朝風呂は
どこか わくわくとして後ろめたい
隣のおばさんがそろそろパクチー(犬です)を
散歩させる時間
湯気でくもっている気配の浴室の窓をちらり見て
一体誰が入っているのかしらんと思うかもしれない

ご主人かしら
昨晩はだいぶ遅いお帰りみたいだったし
お隣のことなんて
どうでもいいんだけど
パクチーが吠えるから眼が覚めちゃって
ご近所迷惑よねえ
でもねパクチーはおバカじゃないのよ
ただちょっとだけバカ真面目なの


まさかおばさんは一家の主婦である私が
バブの泡に包まれて
今のうのうと風呂に入っているなどと
思いも寄せないことだろう
うっかり知られてしまったら
明日には
一家の主婦なのに的なレッテルが町内に流れることだろう

そういえば
実家の父が
「一家の主婦なのに晩御飯時にいないとはどーいうことだ」と
ことあるごとに母に立腹していたっけ
子供にとっちゃ、別に母がいなくとも、御飯さえそこにあったら問題なしなのに
どーいうことだ、と言われても
おおかたどこかでまた井戸端会議でもしているに違いないって知っているでしょうが
主婦は家に【準ずる】役割をまっとうするべき
それが昔気質の父のいいぶんだった
もっと時代を遡れば【殉ずる】なんて怖いこともあったかもしれない
結局のところ
結局父は母のいない食卓がさみしいだけだったのかもしれない
不器用な愛ってやつだったのかもと思い当たる
愛に準じようと思えば多少の摩擦熱が起きてしまうものだ
愛もたいがいにしろってんだ
火事にでもなったらてーへんだ

みんな誰かに(何かに)準じている

セロリ(猫です)は愛玩という役割に準じながら
(注:時々虎に戻ることアリ)
パクチーは番犬という役割に準じながら
そしてこれからも
一生懸命に隣人をどろぼう扱いするのでしょうね


幸いなことに
私のつれあいの口から、一家の主婦的な言葉を聞いたことがない
彼は私がいない食卓をさみしがったりしないのだろう
そこに愛がないのか、あるのかは
平和のために追求しないこととして
家人はいつ起きてくるともわからないし
一応朝ごはんは作って並べてあるし
冷めていたらチンすればいいし
電子レンジに準ずればいいだけのこと

だからこうして至福の時を楽しんでいる
快速列車は日曜日は運休なのだし
どこかに速く行く必要はない


自由詩 準急列車が出発します Copyright そらの珊瑚 2013-03-23 13:38:54
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