名前
よしたか



僕たちの世界にある
名前のないものに
たくさんの名前が
つきました
長い長い年月の中
たくさんの名前が
つきました
これから先も
たくさんの名前が
つくでしょう

それは軽はずみな業
それは工夫されたエンターテイメント
それは無謀な事故のように
それは反逆の湧き水のよう
それは捨て身の作戦のようで
ときには惨たらしい出来事の戒めと鎮魂
あるいは誰かへ贈る手編みのマフラーのよう
為すべくして
成すべく
指は示し
舌はまわり
名のないものは
名づけられていった

路傍の小さな石ころの歴史に
青海の鰯雲の柔らかな鱗に
国境なきあらゆる人物たちの花びらに
かきむしられる胸の深底の病に
ハート型の瞳が熱く見つめるもの
静まり返った森の誠実な知恵

名づけられたものが望まない
ふさわしくないものは
幽霊時計の秒針が永遠を指すと
不思議な風に吹かれ消えていくと言うが
道端に捨てられていた空き缶が
明朝にこつ然ときれいさっぱり消滅することがないように
役目を終えた名前を片づける誰かがいるのかもしれない

その者の名前は
ネームクリーナーと言う
その者の名前は
佐々木のおじさんと言う
その者の名前は
愛のないものは壊れる、と言う
自然淘汰と辞書は名づけていた
神のみぞ知ると長谷川くんは名づけていた
ウホホと原始人は名づけていた
ドクンドクンと野兎は名づけていた

風はいつの間にか吹く
名前だらけの世界の
名のない時間に吹く
名のない風

連れてかれる名前はなんだろう
つかの間に残る名前はなんだろう
長く長く残る名前はなんだろう

キラキラの純白だった名前のないものたちと
もどかしくもセカセカした名前たちが
見事、密接に、結合したものが
現在に咲いている
人が呼ぶために
人が分かち合うために
人が迷わないために

まっさらな渾然大地でティラノザウルスが威張りちらしていた時代から
多すぎる言葉が人を惨めな中毒者にした現在まで
あえて名づけないままの
ずっと名づけられないままの
そんな宝石があるとかないとか




自由詩 名前 Copyright よしたか 2013-03-23 05:29:30
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