春工房
佐野権太

堅く握り込んだ
こぶしをひらくと
てのひらに花が生まれる

目を閉じて
かすかな匂いを取り込み
脳によろこびを与える

水をはった
ガラス鉢に浮かべて
しばらく眺める
しずかな、約束のように

まっ白い紙を取り出して
やわらかい線をかさね
素描する
水を吸いあげる喜びに耐えかねて
ときおり
くるりとかたちを変えるのを
楽しみながら

色はつけない
みるものの
感性に委ねることにしている

そうしてひとつの
ある覚悟をもった
春が生まれる
やわらかい
一編の詩のように






自由詩 春工房 Copyright 佐野権太 2013-03-22 09:51:56
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