白髪を染める
夏美かをる
きちんと一センチ伸びた白髪が
またもや月が巡ったことを
立ち尽くす私に伝える
捲り忘れたカレンダーよりも
ずっと着実に
ずっと正確に
遠い故郷で
私がその顔を拝む前に
燃やされてしまった父は
三十代半ばで総白髪になったという
同じ頃から始めた
月一の儀式
私はそれを
いつまで続けるつもりなのか?
尊い遺伝子の顕性であるというのに
人工の墨で覆い隠し
不自然な程の漆黒で
ほんの一時繕われただけの髪を
入念に結いあげては
満足げな薄笑いすら浮かべている
鏡の中のそのアホ面に向かって
「この馬鹿ものが!」
ともう一人の自分が渇を入れる
そんな私に
飾棚上の父は
いつもと変わらぬ
静かな笑顔を向けるだけで
何も語ろうとはしてくれない