白髪を染める
夏美かをる

きちんと一センチ伸びた白髪が
またもや月が巡ったことを
立ち尽くす私に伝える
捲り忘れたカレンダーよりも
ずっと着実に
ずっと正確に

遠い故郷で
私がその顔を拝む前に
燃やされてしまった父は
三十代半ばで総白髪になったという
同じ頃から始めた
月一の儀式
私はそれを
いつまで続けるつもりなのか?

尊い遺伝子の顕性であるというのに
人工の墨で覆い隠し
不自然な程の漆黒で
ほんの一時繕われただけの髪を
入念に結いあげては
満足げな薄笑いすら浮かべている
鏡の中のそのアホ面に向かって
「この馬鹿ものが!」
ともう一人の自分が渇を入れる

そんな私に
飾棚上の父は
いつもと変わらぬ
静かな笑顔を向けるだけで
何も語ろうとはしてくれない


自由詩 白髪を染める Copyright 夏美かをる 2013-03-22 02:22:53縦
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