恋を抱きしめよう
梅昆布茶
君は望遠鏡や顕微鏡を造る僕の会社の設計室に勤めていた
僕はある日君に恋した
それはけっこう素敵なことだった
会社の裏の独身寮のそばに総務の峯岸さんの貰ってきた柴犬の仔が三匹
彼女は大の犬好きで僕たちは犬をかまって遊んだり卓球をしたり
仲間達とのみにいったりした
若かった
峯岸さんも彼女を好きだったみたいだが
僕が彼女を獲得した
それは良いことだったのだろう
いずれ別れることになろうとも
僕は地元の星の倶楽部に入って
秩父高原牧場の中に皆で天文台を造った
楽しい仲間達と流星群が僕の人生を照らしていた
くぐもった音楽とバイクと太宰治だけがそれまでの僕の人生だったのかもしれない
白煙を残して直線的に加速する2ストロークの情熱的なエンジンが僕の恋人だった
誰も追いつけなかった
渋谷道玄坂にあったSUVというROCK喫茶が
ガロのマークさんに良く似たマスターのいる
地下の穴倉のなかで轟音のような音楽を聞いていたが
それがそれまでの最高の時間だった
ロッカーでもないのにね
かつて仲間と安酒を飲んで議論した高田馬場の居酒屋に
35年振りぐらいに詩人の仲間とゆく
時間が解けてまた僕に近寄ってきて微笑んだ
そうあの時間は今でも生きているんだって
そう思ったら気が楽になった
詩は何を解決するのだろうか
へいわをもたらすのだろうか
屁理屈も詩と呼ぶのだろうか
あのセクト主義の詩人集団の
検閲と反吐のような評価のなかで
詩は死にはしない
考えてご覧
だって僕たちの揚げられる旗って
たかだかのそれしかないんだぜ
でもそれに会いたくてやってきた
看板をはずせ
君に戻れ
どれくらいとは言わないけれども
僕の好きなくらいにね