フラウ No.1 〜How about you?〜
破片(はへん)

フラウ、
きみの瞳が黒くなかった頃、ぼくらは、
花畑を見つけるのが殆ど唯一の、楽しみだった
十分おきに鳴るセルフォンに、きみは、
いちいち振り返った そして、ぼくは
なんでもないと、答え続けた
歩みは遥か、何とも言えない香りの中、
風から粘つきが消えるまで、ぼくらは
花を見つけて、うたうように指をさし、
フラウ、きみの指先からはいつも
さざ波のリズムで歌声が洩れていた

ねえ、ぼくは、
歌なんて何も知らなかった
だのに、ぼくは、きみと一緒に歩いている時だけ
多幸を織る高らかで伸びやかな、コードを、
その調律を、いくつも作り出せた
フラウ、きみは、
青い青い快晴の、春風から、海の潮を
殺さないように、取りのぞくことが出来た
きみのそばを離れるとしたら、ぼくの喉は詰まり、
発熱し続けるセルフォンの、重みに崩れ、
声も出せないまま
粘つく軟体として、単純な、煩い、
リピートの果て、挙句。

境界だった、フラウ、
きみの周囲には、囲うようなドーム状の
壁があるはずだ、
きみの白銀にちかいブロンドを濡らす風は
ここにない
いくつもの花の咲く場所を探す間、
ぼくたちは傘を持ったことがない
境界だった、海からのぶつかるような、
潮風にきみだけが、取り残されて、
きみは笑う、ぼくはよろける、
きみは、笑う、
風を手に取る、凪いで爽やかに
渇いた世界にぼくは改めて立つ、

風が薄く棚引く様を、見ることで、
ぼくたちは一層、幸せになれると知る、
フラウ、きみは向日葵が好きだ
フラウ、きみは桜が好きだ
フラウ、きみは竜胆が好きだ、きみは桔梗が好きだ
しかもきみは、フラウ、蒲公英だって好きだ
ぼくには全て、見たこともなかった、
花々だった。
花や歌の何も、知らずに生きてきたぼくを、
フラウ、きみは笑った、
笑って、手を取ってくれる。


自由詩 フラウ No.1 〜How about you?〜 Copyright 破片(はへん) 2013-03-21 03:50:08
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