最終回
平瀬たかのり

 いつもたくさんの洗濯物で
 満艦飾に彩られていた庭が
 屈強な男どもに踏み荒らされていく

 六畳間に上がりこんだ現場監督は
 うち捨てられていた円卓を
 作業靴の足でガンガン蹴りつけながら
 部下を叱りとばすのだ
 「こういうものは先に処分しておけと言っていただろう」


 おしゃまな妹とケンカをして泣かせ
 今日もこっぴどく叱られたのは
 いたずらばかりしている坊主頭だ
 舌ったらずのこまっしゃくれは
 若い父親の膝の上でご満悦
 慈母がみそ汁の鍋を手にいそいそやってくるとき
 美しき禿げ頭に威厳を光らせつつ
 家長は読んでいた夕刊紙を
 バサリ、意味ありげに音たてて閉じるのだ

 鍋のふたを開けるのは
 娘であり、姉であり、妻であり、母であるところの
 いつも元気いっぱい彼女の役目
 ふわぁ、湯気がやさしく七人を包みこんだら
 さあ、いただきます
 おお、これぞ正しかるべき家族の姿
 日曜六時半の幸福よ!
 何ものにも替えがたき円卓の栄光よ!


 パワーショベルの腕がぐぐっと
 伸び上がり、一気に振り落とされると
 風が巻きおこり
 ポストからあふれ出た
 変色した督促状が
 たよりなく揺らめいて

 巨大な歯が
 陽光を乱反射させながら
 とうとう屋根瓦に食いこんで
 バキバキバキと壊しはじめる
 バギバギバギとうち砕き続ける

 グキャラゴオォッ
 まだ壊されていない塀の上
 白描が汚れきった毛を逆立て
 獰猛な声で威嚇する
 首輪の鈴がチリンと鳴る



自由詩 最終回 Copyright 平瀬たかのり 2013-03-14 17:09:11
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