多元宇宙の砂漠にて
平瀬たかのり

 万頭の牡馬をかしずかせ
 万頭の牝馬を従えて
 万頭の仔馬を慈しみ
 ホクトベガは
 乾いた風の中に
 立っている

 時空の流れはひとつきりでなく
 すこしずつ異なった世界が
 無数無限重層的に存在するという
 多元宇宙論こそを
 百円馬券を握りしめて信じるべきなのだ

 砂嵐、砂嵐、砂嵐!
 やがて砂塵のかなたから
 大河の奔流の如く押し寄せる馬の群れ
 鹿毛、黒鹿毛、青毛、青鹿毛、栗毛、栃栗毛、芦毛、白毛
 おお、見よその先頭
 ギチリ、ザクッ ギチリ、ザクッ
 ギチリ、ザクッ ギチリ、ザクッ
 はだか蹄の音も強く深く
 駆けていくのは砂の女王
 すべてのアラビヤの馬を
 ひきつれて


 (ホクトベガ=G1、エリザベス女王杯勝利後不振に陥るが、ダート(砂)のレースに活路を見出し、無類の強さを誇った。世界最高峰のダートレース、ドバイワールドカップにて4コーナーにて転倒、左前腕節部複雑骨折の為、現地にて予後不良)






自由詩 多元宇宙の砂漠にて Copyright 平瀬たかのり 2013-03-12 20:41:09
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