眠れる森の
月乃助


春は、阿修羅の使い
むごたらしく やすらかな眠りをさまたげる



         *


 誰もが
ぬくもりの休息の時に、永遠をしらず
蠢きだす
 

 けして生けるものだけでなく
天空も 川瀬も あの雉の鳴き声さえ
厳しさはどれも叱咤され あわい春色にそめあげられる、


 私の心に宿っていた ちいさな種さえも


「「 雪解けのやわらかな陽だまり
木の室から今しがた這いでた
二匹の蛇が、交わっていた
我慢できずに 細い
しなやかな枝で それを打った


 ちいさなスイッチの 指のうごきが
すべての明かりを 生みだすように
すべてを変える


「「 次の時、私は男になっていた



「「 おまえさんの話は、
フィニキアの船乗りほどの 大嘘だね
あたしは、同業者は占わないよ


 ネクタイすがたの私のまえで、
花街にすわる老婆が、すりへったカ‐ドを弄ぶ

つぶやくように
咎めるように


「「 俺は、なんになろうと心を砕く
あした 俺は、女の時に焼いたブラウニ‐を口にできるのか
あの芳醇な 濃厚なカカオの味を
男の俺が、まったくおなじ悦びで味わえるというのか


「「 しらないね、蛇を叩いた酬いさ
2000000の卵胞の おまえさんは、300の卵を生み落とした
形を 子を なしたのは、二つだけ


 種の保存という 女の ヒトの仕事を終えたなら


 あらたな道を歩むがよいさ
 気のむくままに
 


 さあ、商売の邪魔だよ もう

 行きな





          *




アニマかアニムスか
オ‐ランドのように
うちなる影に 身をとかせ


月影に、夜の闇が いとましいほどふさわしいと
祈るほどに
想いながら
男の歩幅で 歩みだす










自由詩 眠れる森の Copyright 月乃助 2013-03-11 18:31:27
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