アグルーカ
飯沼ふるい

アパート、贅沢な荷室

惰性の中で想われる 知らない人
知った風に 想われる人

私、贅沢な荷物

腹を空かせ、吹雪を想うひと時
 空は曇り/乱氷帯・ぬかるみ・吹雪・川
語彙と眼球との狭間に置いていかれた
色みを想うひと時

誰のものでもない 私の孤独を
傍観し 記憶し
捨てきれない自我の為に
誰かの暮らしに渇いている

知らない人 呆れるほど数多く
それら人生と呼ばれる石ころ全てを
展望、望、呆。

さて、アグルーカ 貴方の死は
私の消費の為には存在しないはず
だが、アグルーカ
貴方は傍観され、記憶され
無数の夢と共に滅び
ぬくぬくとした羽毛布団の惰性に蝕まれ
アグルーカ 貴方の死は
どれほどの価値を
見知らぬ人生に捧げられたのか

灰と氷の足跡が
極北の襞に刻まれた時
有限された時間は
未来を標榜することなく
凍傷のように肉を外界へ堕胎する

アグルーカ 貴方の尊さとは
そのようにして
世界に記憶されることなく絶たれた
生の残像 ほんとうの孤独

私、贅沢な荷物


「アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極/角幡唯介」



自由詩 アグルーカ Copyright 飯沼ふるい 2013-03-09 14:32:54
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