吊革に捕まる人々
赤青黄

「吊革に捕まる人々」



サラリーマンが
寡黙を突き通していた


単語帳に顔を埋める女子高生に
天井から釣り下がる輪っかで筋トレを始める男子高校生に
鼻をずびずびずびずび啜りまくるおじさんとおじさんとおじさんに

「車内ではお静かに」

の呼びかけは通用しない

ここは田舎の電車なのだ


吊革は手持ち無沙汰を紛らわす道具に過ぎなくて
両手は吊革をギシギシ言わせるだけの手段に過ぎない
車内アナウンスはギシギシとあまり変わらなくて
ずびずひと笑いとムキムキとギシギシは
アナウンスと何一つ変わらない
女子高生がまた笑い出す
ずびずびはずひずひになる
ギシギシは喧嘩を始める
女はまだ笑っている
男は相変わらず同じことを繰り返す

誰も止める奴なんかいない

ここは田舎の電車なのだ

腕組みをする寡黙なサラリーマンは
電車を降りた後少しにやけていた
今頃脳内は笑いこけた女子高生の姿で一杯に違いない


自由詩 吊革に捕まる人々 Copyright 赤青黄 2013-03-09 10:27:21
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