「林檎」
ベンジャミン
(不器用であることは、罪ではありません)
林檎の皮をどれだけ長くむけるだろうかと
無邪気にはしゃいでいる間に
途切れてしまった命はいくつ
あの赤い肌をすべっていったことでしょう
もしもあなたが
その赤い線のような林檎の皮に
からだをはしる幾すじもの流れを
感じることができるなら
いっそわたしは
赤い耳のウサギのかたちにして
あなたが美味しそうに食べるのを
嬉しそうに眺めていたい
(この いろ)
(この かたち)
まるで心臓みたいでしょ?
わたしけっこう器用なのよ
赤い耳のウサギつくれるもの
それがわたしの罪だとしても
甘い悦びがあなたの体を満たしてゆく姿を
静かに眺めてるわたしを許してくださいね
※
地球がまわる方へと
林檎を手のひらの上でまわしながら
もしもあなたがあの赤い林檎の皮に
命の面影を感じることができるなら
どうか祈ってやってくださいね
わたしのかわりに
どうか泣かずにいてくださいね
とても綺麗なあの林檎の赤い肌は
涙で輝かせる必要もないでしょうから
だって ほら
かじってもわたし
ちっとも痛くない
(痛く ない)
何かが
流れ出してしまうこともないのに
そうやって少しずつ
(わたしたち)
失っていくんだね