ゆうこちゃんへ
平瀬たかのり

 ゆうこちゃんは元ヤンキー
 スイングドアどっかん
 カートでつき破って
 おっはよー 
 おぉ今日も元気いっぱいで品出し
 野菜売り場へ突撃だ

 ゆうこちゃんにはカボチャ割る鉈
 割らないけれどカボチャ割る鉈
 バックヤードでぶるんぶるん
 危ないってば
 
 ゆうこちゃん休憩室でお弁当
 やっぱり元ヤンキーのカレのこと
 にこにこパートさんにしゃべってる
 カレの車で
 明日から旅行だってさ
 
 ゆうこちゃんぶらぶらぷりぷり
 鮮魚部にやってくる
 なぁなぁあいつ来てるで
 あいつって?
 社長の息子やんか わたしあいつだいっ嫌いや
 なんかすごい偉そうにしてるやん
 うんぼくも大嫌い
 気が合うね

 ゆうこちゃんバイト終わってお買いもの
 るんるん今日はお給料日
 籠の中にはヒラメのお刺身
 はい、それはぼくが造りました
 カレと仲良く食べてよね


  「あれ、どないしたん今日バス?」
  「ああ、ゆうこちゃん いや自転車パンクしてねえ」
  「ふーん じゃあ寮まで送ったげる 乗りぃな」
  「えっ、ええよええよそんな」
  「かまへんって 寮って市役所の近くやんね ちょうどそっち行くところ
   やってん」
  「うーん じゃあお言葉に甘えて」

  「なぁ、なんであの会社入ったん?」
  「うーん なんでやろうねえ」
  「仕事めっちゃキツイやん」
  「うーん キツイよねぇ この前時給で計算したら四百円ちょっとやった 
   ははは」
  「えーっ、えぐぅー わたしらよりずっと安いやんそれって」
  「うん えぐいよねえ ははは」
  「笑いごとやないってぇー」
  「ははは」

  「ありがとう、助かりました」
  「いぃえぇ じゃあバイバーイ」
  「うん バイバイ」
 

 ゆうこちゃん
 ぼくはあのころ
 毎日怒鳴られていて
 いつも魚臭くて
 霜焼けは日ごとにひどくなっていって
 足の裏にはウオノメまでできてしまって
 やがて手術のヘルニア腰はじくじく痛み続けてて
 教習所は第二段階に進めなくって
 「もう電話かけてこないで」って言われたばかりで
 だからぼくは
 君のミラが遠ざかっていくのを見ながら
 高槻の市役所前で、ひとり
 泣いたんだ
 
 ゆうこちゃん
 ぼくはこうして
 もう二十年近く前に出会った
 あなたのことを書いてみました
 苗字も忘れてしまっているし
 お名前、どんな字を書いたのか
 訊いておけばよかったのかなあ

 ねえ、ゆうこちゃん 


自由詩 ゆうこちゃんへ Copyright 平瀬たかのり 2013-03-07 14:45:15
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