増殖お父さん
平瀬たかのり

 朝起きると、お父さんが増えていた

 ばさり、ばさ、ばさり
 ず、ずずーっ、んぐっ
 しゅふしゅふしゅふ、おえぇーっ、んがらーっ、ぺっ
 ぶっ、ぶりゅりゅりゅっ、ぷぴぴっ、ぶぴっ

 わたしはお母さんに
 お父さんの下着とわたしのものといっしょに洗わないで
 なんて言ったりしないし
 まーそれなりにありがたいなあと
 素直に思っているから
 今どきデキタムスメなのではないかと
 うぬぼれていたのだけれど

 さすがに四人いっぺんはキツイな

 何言ってるんだ洋子目が覚めたら毒虫になっていたヤツだっているんだぞ洋子
 そうだぞ洋子おまえは普段から本を読まないからそんなことも知らないんだ洋子
 いいなあ洋子今日から収入四倍だぞおこづかい増えるぞ洋子
 おーい洋子紙ないんだ紙取ってくれ洋子

 あのさあ、どうでもいいけどさあ
 いいかげんうっとうしいんですけど
 お父さんお父さんお父さんお父さん

 「ね、最近生え際スッゴイ後退してきたよね」

 家を出る間際言ってやった
 ふん、勝手に増える父親になんか
 これくらいのこと

 待ちなさい洋子!
 待ちなさい洋子!
 待ちなさい洋子!
 待ちなさい、あ、だから紙取ってくれって洋子ぉっ!

 少しだけスッとした気分で
 いつもの千恵との待ち合わせ場所に行くと

 おはよーヨッチね家庭科の課題やってきたわたしほとんどおばあちゃんに手伝ってもらったんだへへへやっぱりバレるかな
 おはよーヨッチうちのお母さん今日寝過ごしちゃってさあお弁当入れてくれなかったんだだからわたし今日学食だよほんとおいしくないよね学食ってば
 おはよーヨッチやだよねー一時間目から体育なんてさほんとヤダとりあえず最初に運動場走らせるのだけはやめてほしいよねサイアクー
 おはよーヨッチねね聞いて聞いてわたしちょっとやせたんだよまあそりゃヨッチにはかなわないけどさあでもヨッチちょっとやせすぎだようわたし心配になるときあるもんあっそうだじゃあ今日さ帰りにお好み焼き食べに行かない行こう行こうねねねけってーい

 やっぱりお父さんも友だちも
 ひとりでじゅうぶんだよ



自由詩 増殖お父さん Copyright 平瀬たかのり 2013-03-07 12:41:30
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