連詩 「あづさゆみ」(百行) ベンジャミン 鵜飼千代子
鵜飼千代子

空を掃きすじ雲を残す
裸木の梢の枝が鳴る季節も
そろそろ終わる
どこまでも抜ける空が
やがて春霞めいてくる

弾けそうななにかの呟きが
聞こえてきそうな気がして
そろそろと吹く風に
そっと耳を澄ましてみても
街の声はいつも淋しい

くし歯が欠けたショッピングモールの
まばらな人通りは
数件先が隣の店の商人(あきびと)たちを
ステルスタイプの査定人に育てる
ほら

それでも大きくからだをそらせて
精一杯の気持ちで見上げるなら
そんな見えないものたちだけでなく
あなたはたしかに見るだろう
どこからか吹いてくる始まりの風を

乗せて行け
気の向く先へ
絡まる足先の衣服に捕らわれず
伸せて行け
たとえひとりきりが約束される道行きだとしても

けれど忘れてはいけない
小さな息づかいのひとつひとつが
命となづけられたすべてがひとつとなって
静かに寄りそうように生きてる自分がいる
ひとりとは必ずしも孤独ではなく そう

感じるでしょう?
泡立つ肌を被うベール
気付くでしょう?
はじける喜びを見守る眼差しを
そうしたら ひとりは孤独なんかじゃない

少し視線をそらした先に
いまにも動き出そうとからだをしならせる
そんな小さなものたちと手をつなぐことは
いつだってできることを
忘れてなんていないでしょう?

雪が溶けるのを心待ちにして
花の支度を整える雪割草たち
まだ、
花芽に気付けない桜のつぼみも
もーいぃかい?と、待っている

「あ」からはじまって
つづいていく言葉をどれだけ知っているか
さほど大切にしていなかったら
ゆっくりと後退してしまうよ
見過ごしている日々の中で

流れに沿わないと置いていかれるって
水戸黄門のオープニングテーマ「あゝ人生に涙あり」の2番みたいだね
だけど辞書は
好きな場所から読んでいいんだ
2頁抜かしも、100頁抜かしも

そう、そんな速度で
待ち遠しいものはいつまでも遠いけれど
近づくほどに気持ちは加速していくんだ
それは鼓動のリズム
めくられる日々に微笑みたくなるような

小さな章がいくつも出来るね
こちらから束ねて
あちらからも束ねて
やがて 「わたし辞書」が
一冊の詩集になる

書かれたものと書かれるのを待っているもの
それらすべてをふくんだ
いつまでも未完成な存在だからこそ
いつ終わってもいいように
いつからでも始まりと呼ぶことができるもの

あんまりそのままにしておくと
枕に出来る高さを通り越して
富士山位の高さになっちゃうね
なんて笑いながら
いとなむもの

三日月にぶらさがって夜をこえ
昼間は見えないそのすがたに
ぴんと一本の線をひいて
とても小さくて大きなものをこめた
ひとすじの弧を描けたなら

その旅行は
ぶらんこのようなもの?
連凧のように
一緒にいるものを伴うもの?
どちらにしても楽しそう

どこまでも行けるはず
どこまででもとどくはず
たとえ孤独と背中合わせの旅路でも
放たれた言葉の自由さにまかせて
ゆだねることをためらわなければ
 
取り巻きがいるから
幸せで、孤独ではないってわけでもないんだ
都合のいい時だけ頼って
思うようにならないと扱き下ろす
そんな 日常があるから

小さく愛しいものたちすべてと
常に生まれつづける静けさの中
普通という意味を砕くように
この刹那
ままならないままの明日を射抜く





平成25年3月3日―7日 ベンジャミン 鵜飼千代子


自由詩 連詩 「あづさゆみ」(百行) ベンジャミン 鵜飼千代子 Copyright 鵜飼千代子 2013-03-07 03:19:50
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