幻影のバラード
るるりら

少女は ある年の四月からというもの バラードの中のヤマネだった
両親と同じ名ではなく ヤマネだった
冬眠のように まどろんで
春眠のような いつくしみで育てられ
ひかりが はねようが
とりが むれをなそうが
いつしか少女は ヤマネとなっていた

冬眠から目覚めたヤマネは 黒い瞳を くりくりさせながら
極彩色文化のビルディングの中に出かけ
黒目がちにアニメ声で携帯電話の売り子をするが
気が付くと ビルディングは すっかり緑に覆われ
インパラがビルとビルの軒から軒に跳ねて 
屋上まで 駆け上がっていたりしている
ひかりがビルの中で どんなに はねようが
ビルの中ではスピーカーの音が割れようが
窓の外でオスの始祖鳥は 大空で恋敵を競り合い
植物さえ甘くさせる恋の歌を 高らかに歌っている

少女はというと、バラードの中で ヤマネとよばれつづけ
上司のタヌキとともに 大トラとも戦った 
しにそうでしにそうで しにそうなバラード
そんな ほうらつな野生のバラードも いつしか終息を迎える

ふたたび訪れる しばしの冬


ヤマネには 幸せとは何かは解らない 
けれど「わたしって幸せ」が口癖だ 
ただ ほんとうは
つぎに目覚めるときは
別の生き方を 望んでいる
うつくしくも切ないバラードのこのあとは
もっと高揚するラブソングが 良い
そんなことを願いながらヤマネは寝息をたてる


冬眠のように まどろんで
春眠のような いつくしみで 
ロングブレスで愛を
愛を
春を
いざなう




 ※ヤマネとは 山に棲む小型哺乳類で 山鼠、冬眠鼠とも言います。



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初出「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)に
投稿させていただいたもの

  
タイトルは、 クローバー さんです。


自由詩 幻影のバラード Copyright るるりら 2013-03-06 20:50:29
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