硝子篇
平井容子

もうありったけの陰を踏んでしまった
気がつけば空はゆるゆるになっていて
気が狂いそうにやさしい
どのまどろみも平等だった
角のはえた恋人がわたしを映して割れていく
心中みたいなラメが散らばり
からすがそれを食べにくる
これで良かったね、と言いながら
羽の影を追って
また新しい子らが
遊歩道へ落ちてくる、午後のさつばつ

あのとき踏んだあの子の骨は
甘かったかな
臭かったかな
会うことはもうないけれど




自由詩 硝子篇 Copyright 平井容子 2013-03-06 17:39:32
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