コーラの泡が弾けてる
木屋 亞万

黒髪にだってひっきりなしに雨は降る
墨の中で踊る粒子が枯らした手と手の隙間
微妙な距離を詰められずにドーナツのこじんまりとした完結
温度を失ったものの粒子をかき回す電子の波のうねりのようなものの
ぎらぎらとしたおそろしさを知るものはすくない
コーヒーをかき回すたびに焦げていくスプーンが
コーヒーカップの尻に敷かれる皿に触れるたびジュッと焦げる
半笑いの午後のふざけた時間の進み具合と
喫茶店でお茶を飲む人のいないことへの憂鬱
紅茶は夕陽の向こうに沈んだまま天岩戸に閉じこもり
どれだけ偉大なものの踊りも矮小なものの舞いも
閉じられた目に映ることは無かった
いくつも投身自殺していく砂糖の溶け切らない甘い願望は
スプーンにかきみだされてしゃりしゃりと砕かれ
それでもスプーンにまとわりつく甘い泥の溶け残る

偉大なホールは穴に限りなく近く
つまり洞窟で叫ぶように反響する空間でなくてはならない
もしもバイオリンを爪弾けば音の気泡がぶわっと拡がり
空間に漂う気体が丸々バイオリンに染められ
粒子となったバイオリンが静止していた空気を飲み干すのだ
マイクロフォンもスピーカーも必要ない
バイオリンの木目の裏側の空洞と
弦を揺らす身体の奥の消化器官という洞窟が共鳴し
角ばったホールを泡で包み込むのだ
震える弦の気位の高い響きが終わるとき
空気はふたたびすっと静止し
その静止をかっさらうようにコーラの泡が弾けだす

手で足早に拍を取る人々の音が
雨のように部屋から噴出し
跳ね返っては降り注ぐ
黒服にだって雨は降る
拍手を避ける傘はない
頭を下げて止むのを待とう


自由詩 コーラの泡が弾けてる Copyright 木屋 亞万 2013-03-02 00:28:28
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