シャッターチャンス
夏美かをる

二月生まれの四人の合同誕生会をした

九歳と三十二歳と三十六と九十七歳

九歳は私の娘
九十七歳は私がアメリカに来た当初とてもお世話になった人
三十二歳は九十七歳を通じて知り合った子
三十六歳はその彼氏

九歳はノルウェー系アメリカ人と
東京下町生まれの日本人との混血
三十二歳はグリーンカードが当選した根っからの関西人
三十六歳は南アフリカ出身のアメリカ国籍保持者
九十七歳はシアトル近郊生まれシアトル近郊育ちの
アイルランド系

人生って言葉自体もまだ知らない九歳と
自分なりの人生を手に入れるために
日々模索を続けている三十二歳と三十六歳、
人生という路につけてきた沢山の足跡を
静かに振り返る日々を過ごしている九十七歳

直径一万二千七百五十六キロメートルの
球体の座標上で
ばらばらに存在していた四人が
不思議な引力で私の目の前に引き寄せられ、
直径二十センチのケーキの上に顔を揃えて
一緒にろうそくの炎を消す
私はその瞬間を狙って
私の丸めた両手にすっぽり収まる
六×八センチメートルの枠の中に
慎重に四人を囲い入れた

四時間後
輝く笑顔が四つ並んだ写真を
ダウンロードしながら
私が故郷と呼ぶ場所からは
あまりにも遠い陸地に定められたこの座標点に
偶然とも必然ともつかない作用をもたらした
その力の存在を改めて意識した時
溢れ出た温かい滴が
向かい風にさらされ硬直した私の心を
少しずつ溶かし始めていることに気がついた


自由詩 シャッターチャンス Copyright 夏美かをる 2013-03-01 04:46:23
notebook Home