ありふれた十一通の手紙 ‐4‐
月乃助



少しく眠っていた
ワインのほこりをはらうように
表紙もはがれはじめた 
古ぼけた詩集を手にすれば,

あの時
あたしの詩集は、
日常という単語ばかりで 
充たされていた

「洗濯」
「掃除」
「買い物」
「育児」
「料理」
「家族」
「家計簿」
「夫の両親」
「土曜日ごとのSex」
「月曜日の憂鬱」

ほんのすこし 
西欧というパンをかじりに
海のむこうへ
心はずませいったのに
のばした腕に
月の石ほどに
比重をました
家族という
石ころがのせられた

あがないに
時に難しい言葉を
つづろうとも
文字をもたない古代の民さながら
形をなさず
あきらめに、
荘厳な宮殿に
安住の地をみつけたもののように
主婦の座を
疑おうとは、しなかった

「夫の腕のぬくもり」
「子供の寝顔」
そんなものを言い訳にして、
あたしは、
何を書こうとしなかったのか

だれも
不思議と
文字をつづっている時には、
詩集を
読むことはできないらしい

次の詩集を
書く頃には、
きっと今を生きるこの詩集を
読むことができるのかもしれない

その時もまだ、
あたしが詩人で
あるならば






自由詩 ありふれた十一通の手紙 ‐4‐ Copyright 月乃助 2013-02-25 10:42:24
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