スピンオフ
吉岡ペペロ
のどが痛かった。激痛レベルだった。痛いところがあると身動きのとれなくなる自分がいた。
ベッドで薄暗くからだを丸めながらのどの痛くなかったころの自分を思い浮かべた。
英雄色を好む、あのころ自分を奮い立たせる言葉がこれだった。
この言葉を唱えると顔はちから強くニヤケ胸から頭にかけて涼しい風が吹くようであった。
唾をのんだ。痛みに肩がかまえた。そして強い痛みのあと体は悲しく弛緩した。
いまさっき思い浮かべていた涼しい風が幻の荒れ地の隅にちいさく吹いていた。
プレジデントカップの上位入賞をそこに見つめていた。
生まれたばかりの娘のことをそこに重ねていた。
起こるすべての事象は一様に明るいものであるはずだった。
そうであるための方法は自身が動くだけ。それがいま動けないのだった。
娘の泣き声が聞こえた。
妻の物音に耳をそばだてた。
娘の泣き声がやんだ。
なぜか自由を感じていた。
目の前にはあのころのような涼しい風が吹いていた。
のどの痛みが一瞬消えて今臥せていることを彼は暫くいぶかしんでいた。