幸福な繭
月乃助
昨日の雪
明日降るそれとはちがうことを
今日の私が、気づきはじめる
堕ちてくる雪の やむことのない語らい
一つの声か 言葉らしきものを手繰りよせれば
つながる白いサダメを紡ぎ
雪の繭を編む
森の精霊か、雪ん子が好奇の目をむける
繭のなかで安らかな 胎児のように
まるくなり、
なぐさめに
幸せになろうと心をさだめ
この世のありうべき悲しみと苦痛の往きつく先を 想う
その深淵にたてば
オノレがひどく幸せにみえてきそうだった
( 相対性幸福経済論 )
けして遠い国の戦場の
無惨な兵士の死などでなく
垣間みる日常の
目の前に車が轢く幼児の 母の瞳や
男たちに次から次に犯される少女の地獄
いじめに校舎の屋上から飛び立つ少年の 最後の呻き
ステ‐ジ4の告知に歪められた 男のくちびる
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
「 だめ、比べては、
繭に耳をあてて聞いていた 雪ん子の声らしかった
私は、
心の棚につもる 邪なチリをはらい
歴史に名をなす 嘘つきたちのあらゆる金言を棄て去ろうと
心を傾ける
いつか、
繭のなかで
私の肩甲骨は、軟化をはじめ
背が疼き
それは、純白な翼へと変わっている
私は、
雪のなか
越冬する蛹のように その時をまっている