バラード
石瀬琳々
風が吹いたなら バラード
君のまつ毛に触れた歌を
そして君の唇からこぼれた吐息が
空になって雲になっていつか
明日へと届く (耳をすませている)
風が吹いたなら バラード
君の頬にそっと触れた歌を
あの日のやさしさに満ちた瞳をあげて
(その強いまなざしが欲しい)
春になる 春になる 青い草原に
寝転がって見た空の あれは歌だった
低い光が射して啓示が降りてくる
町は見渡す限り金色のかげろう
海のようだった 寄せては返し
どこまでも世界を包んで輝いていた
どこまでも遠く行けるとただ信じた
(風が吹いたなら バラード
君のまつ毛に触れた歌を)
春になる 春になる と口にして
冷たい雪が目の中に降る
名づけられぬ憧れが今も鳥のように
光に打たれて翼を広げはじめる
静かな森が横たわる 空も雲も沈黙も
涙がすべてを濡らすだろう やがて雨のように
やがてなつかしい歌にも似てそれは
(風が吹いたなら バラード
君の頬にそっと触れた歌を)
歌はやさしかった いつしかくちずさんだ歌は
風の中でひとり目を閉じて待っている
春になる、春になる、春になる、