逃げてしまった僕が感謝されて戸惑っている
kauzak

ばぁちゃんの畑の相続に協力してくれてありがとう
叔母から感謝されて居心地が悪くなる
肝心な役割ができなかったと後悔しているから

  故郷を離れて暮らす叔父から電話が架かってきたのは
  お盆前のことだった

   祖母が耕していた畑地は
   本家の伯父以外の四人の兄弟姉妹で
   分割して生前贈与されていたように見えた

   が
   去年母親が亡くなって確認したところ
   相続の登記をしていなかったことが発覚し
   残された兄弟姉妹の関係者で漸く
   相続の登記をしようと重い腰を上げた

  その作業が進む中で叔父は
  今も本家の近くで唯一暮らしている
  末っ子の叔母にすべて相続させようと
  提案してきた

  親の故郷から遠く離れた東京に住む僕は
  端から相続されても使いようがない
  と思っていたから一も二もなく賛成した

  叔父は「それならありがたい」と
  喜びながら
  今年のお盆は実家には戻れないので
  登記の方はよろしく頼むと念押しされた

 母の初盆で集まるのを機に相続の話を詰めることになり
 叔父以外の兄弟姉妹とその関係者で話をした

 当然、末っ子の叔母に相続させ
 他の兄弟は相続放棄するものだと思っていたのに
 上から二番目の伯父の遺族が相続に名乗りを上げていた

 話が違う
 そう思いながらも今さら相続放棄を迫るなんてことは
 僕にはできやしなくて
 相続放棄をした僕はこれでもう部外者だと割り切って
 相続の手続きを行政書士に依頼する場に居合わせた

 相続人をひとりにまとめるはずだったのに
 僕は止めることができるはずだったのに

ばぁちゃんの畑の相続に協力してくれてありがとう
叔母から感謝されて居心地が悪くなる
肝心な役割を果たせなかったと感じていたから
もう僕らには関係のないことと逃げていたから


自由詩 逃げてしまった僕が感謝されて戸惑っている Copyright kauzak 2013-02-20 01:29:42
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