たばこの看板
灰泥軽茶
おおらかでよく笑い
どこを見ているのかわからない優しい女性のように
いつもどこかで遠くからでもわかるように
こちらかあちらを向いてじっと佇んでいます
知らない街を心細く歩いていても
いつもと同じような
ちょっと違う笑みをたたえてじっと佇んでいます
そんなとき私はちょっとどきっとして安心します
前住んでいた街を偶然通り抜けるときは
まだいるんだろうかなと
わくわくしちらり
そしてちょっとほっとします
もうたばこ屋さんなんて
とっくの昔に潰れているのに
錆び錆びの擦れ擦れで
ちょっと寂しそうに笑っています
そんなとき私はたばこの看板なんて
街中に溢れているけれど
そのなかには時が経つにつれて
表情や意思を持ちはじめて
本来の目的を忘れられて街に溶け込み
だれかの心にも溶け込んでいくのじゃないのかなと想い
街を歩けば
心のどこかでたばこの看板を探しています