シェフの気紛れポエム タモリタ風 アポカリプス仕立て
和田カマリ

                   ?

 とある地獄のスーパー銭湯、小股の切れ上がったイイ男が、下半身をむき出しにして間欠泉を跨いでいた。強面の赤鬼拷問官に槍で脅されて、恥ずかしい格好を強制されていたのだ。まさに今、新しく地獄に落ちてきた咎人への、罰ゲームが執行されようとしていた。

 生前、錦糸町でホストをしていたこの男は、売掛金の回収の為に何人もの女性を風呂に沈め、身も心もボロボロにしてしまっていた。このタイプの咎人は、こちら温泉タイプの刑場へと運ばれてくるのが地獄の常であった。

 岩盤を割って染み出して来る、赤黒いマグマぐらいでしか灯りが取れない、地下100階の薄暗いスーパー銭湯。しかし、鬼達の福利厚生の為の、バスケットコートを兼ねたここ大浴場だけは、煌々とナイター並みのカクテル光線に照らし出されていた。まるで誰かの「眼」を気にするかのように。

 超人的な運動能力を誇る鬼達には、バスケをするのに、スリッピーでリスキーなこの岩盤がちょうど良い按配のサーフィスなのであった。

 突然に千度を超える熱湯が吹き出し、股間をもろに直撃された男は、身もだえながら実業団のチアリーダーのように、両足を上げ?字になり3メートルほど上昇した。

 その瞬間、亡者から切り取った首で、ドリブルをしていた一つ眼の青鬼は、山なりのノールックパスをリング方面に放った。学生時代バスケットボール部員だった咎人は条件反射で、このパスを受けると怪鳥のごとき奇声を発しながら、豪快にアリウープをブチかました。

 彼はしばらくリングにぶら下がっていたのだが、やがて握力がなくなり、股の鈍痛にも耐えかね、岩盤に落下して行った。着地と同時に、スラムダンクによりひしゃげていた亡者の首級に足を取られ、頭部を強打して動かなくなった。

 館内にゴッドファーザー愛のテーマのヤンキーホーンが聞こえ出し、ゴムの緩んだお揃いのしまむらジャージから、ドドメ色したお尻の穴を半分覗かせた、レディース風のゾンビ達が、ぞろぞろと男湯に集まってきた。皆なぜかどことなく、この男に騙されて苦悶の内に滅んでいった女性達の面影があった。

 マイ箸を荒々しく掴むと、ヤン女達は白髪を振り乱し、気絶した男のペアの温泉たまごと、蒸した黒アナゴを一斉に啄ばみ始めた。

迷い箸  ( どのおかずを食べようか、お箸をヒラヒラさせる事。)
ねぶり箸 ( 四六時中、お箸をねぶりながら食べる事。)
はさみ箸 ( お箸の握り方がダメで、交差してしまう事。)
箸渡し  ( 焼き場の骨拾いのように、箸から箸に直接、手渡す事。)

 ありとあらゆる食卓上の禁忌を犯しながら、お口の周りを男の体液でテカらせる、薬漬けのMAGIC WOMEN、あるいは鉄火場のステキ女子達。

 そんなことも手伝ってか、イケメン君の、自慢のトップオブ小股は更に50センチほど切れ上がり、ここにまた一人、バーオソル的見地からの、イイ女が誕生したようです。

 金の爪楊枝で自らの眼を突き刺していた、腹八分目のレディース達が飛び込む、麗らかな暴虐の強酸風呂。色んなものが溶け込んでいる。風呂の中でまぐわっている間に、酸っぱい湯気を放ちながら、白骨化して行くヤンキーレズビアン。骨と骨が複雑に絡み合って「バイオ知恵の輪」を形成していた。これを解き放つ事は、どうやら「フェルマーの最終定理」を証明するよりも更に難しそうに見えた。

 チュルッ

 不思議な事に、いつもここ迄来ると、どこからともなく短い音が響いて、シューシュポスの神話でもないのだが、地獄での時間がズレて、振り出しの場面に戻ってしまうのだった。哀れ件の咎人は気が付くとまた、間欠泉を跨いでいるのだった。

 毎日、毎日、僕らは岩盤の上で喰われて嫌になっちゃうよ。


                   ?

 ある日のことでございます、天上界では、金のコービー・ブライアント仕様のバッシュをお履きになられ、金の差し歯、金のパンチパーマ、金の首飾り等、とかくゴールディーなB系ファッションで御身をお固めになられた、ふくよかなお姿のお釈迦様が日本風な庭園の中にある、池の面(おもて)を蔽(おお)っている水鏡タイプの液晶から、地獄の容子(ようす)を御覧になって居られました。

 この極楽の池の下は、丁度地獄(じごく)からの電波の受信基地に当って居りますから、針の山の景色やスーパー銭湯が、覗(のぞ)き眼鏡(めがね)を見るように、はっきりと見えるのでございました。モニターは高性能のCPUを搭載しているレグザ方式なので、リアルタイムに起こった事件を、リモコン操作一つで何度も繰り返し再生して見ることが出来ていました。

 「このルーキーのアリウープ凄ッゲエ、何度見てもヤッベエ!それにレディースのえげつないオフェンス プレッシャー・・・これは、ありえないだろう?」

 何をどう勘違いされたのか、お釈迦さまは、目の前で巻き起こったこの惨劇を、「バスケットボール」と言う、米国渡りのスポーツ競技の連続した一場面だと思い込まれて、少しもお疑いにならずに、飽く事もなく何度も何度もご覧になっておいでなのでした。宇宙の真理に精通された偉大なるブッダにおかれましても、あまりにしもじもに関わる事では、エラーされることもありえるようです。

 そしてあちらhell側の住人達は、お釈迦様がリモコンで再生をされる度に、この画像の中で起こる全てが、痛みを伴う事実として一から再体験されると言う、まるで有り難くもない無間地獄のリアルに直面していたのです。

 芥川の生きていた時代とは違い、もう蜘蛛の糸など垂れ下がろうはずもありません。ただ、ネット上に縦横無尽に張り巡らされた、蜘蛛ならぬ雲(CLOUD)のようなWEBシステムが、極楽から下界への一望監視を可能にしていたので御座いました。

 耳を澄ませると、地獄の動画に興ずる釈尊の楽しげな鼻歌が聞こえてまいります。

ババンババンバンバン
アービバノンノン
いい硫酸だねハハハン
歯抜いたか〜
宿便溜まったか〜
ダメだこりゃぁぁ。

ぁぁああ!
地獄は日々是悪日なり
このままでは
ヴィリリオ的な速度の夢魔が
リアルタイムに更新され続けてしまう
誰かお釈迦様にお伝えして
これはバスケなんかじゃないって
アAベBサCダD




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テクニカルターム解説

○アリウープ
 バスケットボール用語。パスされたボールを空中で受け取り、そのまま着地せずにするダンクシュートの事。本テキストに於いては、パスを出した青鬼とダンクをした咎人の、息がピッタリ合わなければ、成功できなかっただろう大技である。

○バーオソル
 フランス帰りの美形バレーダンサーの提唱するダイエット法。彼は内田裕也のような、ステッキを常時もっていて、生徒の股間を小突き上げては、「トップオブ小股」と訳のわからないダメ出しをする。オネエ系との噂もあるが、本人は「ご想像におまかせします。」とはぐらかしている。

○フェルマーの最終定理、ポールヴィリリオ等
 言葉の響きが良かったので、つい使用してしまいましたが、本人良く分かってないのが実情です。どうもすいません。

             ありがとう御座いました。


自由詩 シェフの気紛れポエム タモリタ風 アポカリプス仕立て Copyright 和田カマリ 2013-02-18 19:35:48
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