ポトフ
月乃助

粉のような雪がふりだした

ながめるだけの 白い景色は、
確実なうつくしさと 堅実な
冷たさがある


雪はもう 私の部屋のなかにも
積もり始める
だから
私は、
青い柄のスコップを取り出し
雪を かき始める


隣の部屋では、オバもまた雪かきをしているらしかった
天城越えがきこえてくる
オバが雪かきには、きまって うたう歌


家のなかをいつもさまよっている
柱時計のペンデュラムの音が、
眠ってしまったように静寂をしらせ、
( きっとずっとこわれてる )


 スコップの音の響


男には、妻がいたし
女には子供がいた
ありふれた 雪の かじかむ物語


                  キッチンでは、


たまねぎ と
にんじん
キャベツ に
手羽先 は、
なべの中で湯浴みをするように 瞑想の
ポトフに 煮詰められ
温かな湯気をたてる



  雪の深さに
   心がくじけそうになれば


「 ほら、はやく手をうごかさんと、終わらんよ

知らぬまに横でオバの声がした
この人は、
くわえタバコで、らくらくと雪をかいていく



手のひらのまめと、
汗が肌をつたいはじめたころ



「 オバ、これが終わったら 黒ビ‐ルに野菜の煮込みじゃね

「 ああ、雪かきも わるくなかろう








自由詩 ポトフ Copyright 月乃助 2013-02-18 11:59:42
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