ポトフ
月乃助
粉のような雪がふりだした
ながめるだけの 白い景色は、
確実なうつくしさと 堅実な
冷たさがある
雪はもう 私の部屋のなかにも
積もり始める
だから
私は、
青い柄のスコップを取り出し
雪を かき始める
隣の部屋では、オバもまた雪かきをしているらしかった
天城越えがきこえてくる
オバが雪かきには、きまって うたう歌
家のなかをいつもさまよっている
柱時計のペンデュラムの音が、
眠ってしまったように静寂をしらせ、
( きっとずっとこわれてる )
スコップの音の響
男には、妻がいたし
女には子供がいた
ありふれた 雪の かじかむ物語
キッチンでは、
たまねぎ と
にんじん
キャベツ に
手羽先 は、
なべの中で湯浴みをするように 瞑想の
ポトフに 煮詰められ
温かな湯気をたてる
雪の深さに
心がくじけそうになれば
「 ほら、はやく手をうごかさんと、終わらんよ
知らぬまに横でオバの声がした
この人は、
くわえタバコで、らくらくと雪をかいていく
手のひらのまめと、
汗が肌をつたいはじめたころ
「 オバ、これが終わったら 黒ビ‐ルに野菜の煮込みじゃね
「 ああ、雪かきも わるくなかろう