肉と骨について
salco

しかし何故羽根を持たないか
我々がそれを具有していた
(些か夢想的な)証である
残滓としての肩甲骨
その悲しい佇まいを見よ

また何故海を恐怖せねばならないのか
産声と共に肺呼吸を開始したその日から
目にかかる滴さえ厭わしく
保証でしつらえた浴槽の中でさえ
溺死強迫が片隅から拭えないのか
多分、それは
ぶざまな腕先に往々ヘマをやらかす手があり
あらゆる次元の所有権を主張してやまぬ
この大脳新皮質の想像力の故だろうね

絶え間なく観念を弄びながら
人生は手に余る
こんなちっぽけな時空さえ
何と冗慢で退屈だろう
それも己が生滅を自覚している上でなのだとは
皮肉で贅沢なことだ
これだけの財を持ちながら(持て余しながら)
人生はあっという間に過ぎるほど冗長で
棺もろとも灰塵と帰すには既に虚無的でさえある

空をかすめる小鳥や
一瞬のち大魚に食われる魚さえ
我々(我々全てとは言わないが)より有為な
寧ろ長い生を生きていると言えないか

予知・透視力も具えず
才気の片鱗すらないのに
この脳の容積と重量は苛酷だ
余計な知識も認識も
理性も感応性も空想癖も
動物的幸福を尺度にすれば
生という時空にとって無意味な携帯物ではないのか

ところで人間的幸福とは何だ
充足に感じ入った情緒のことか
その保有時間のことか
ハネムーンのバンパーに結ぶ空き缶じゃあるまいし
そんな物どもは多いほど不幸がけたたましくなるばかりだ
生きて行くのはいずれしんどく
荷物が多い奴ほど遅れるのだ
 「備えの多い旅行者は愚かである
       ポーターを雇えるセレブ以外は」
では敗北の末に勝ち取った諦念の境地のことか?

人は何の為に生きるのだろうか
それは己が夢想の為
具体化させるべき自己実現の為 に何かをする為?
あるいはちょっとした目先の喜びの為
専ら誰かに有用とされ役立つ自意識の為?
己が生命を保持する為の
己が存在を維持する為の
そんなものは調味料に過ぎない!

何故人は生きるのか
何に向かって生きるのか
あんたのことじゃなくて人類普遍の
あるいは各個体に根源的に埋め込まれた
何か別の条理を知っているなら教えて欲しい
種の保存? そりゃそうだろう
だが繁殖以外の
何か高次な理由を私に教えよ!


自由詩 肉と骨について Copyright salco 2013-02-16 23:15:50
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