優しい雨
川上凌


雨で濡れた制服を物干しにかけると
お気に入りのセーターと
向かい合ってゆらゆらとダンスを踊った

優しい雨のなか
口ずさんだのはジーン・ケリーの“雨に唄えば”

これは何処からきた雨かしら
これはだれの雨かしら

雨をコップ一杯に溜めて飲み下してゆくと
透明な水なのに緑の日本海を吸い上げて
なぜここに透明でるんだろうと
不思議に思った

“雨は汚いのよ”
小さな頃から言われてきた汚いという先入観
初めて破った禁忌タブーに 身体が震えた

飲み下した雨はわたしの身体になり
だれの雨でもなく わたしの雨になる

みえない汚れで汚染されたこの透明な水は
知らないうちにわたしを汚染して
それでもわたしの一部になる

そしてやがて海へかえ
いつかまた雨になるのだろう

細胞が死んでわたしは一度死に
透明な水によって細胞が産まれ
私はまた産まれる

めいっぱい手を伸ばして コップに注ぐ雨
溢れた透明な水は皮膚を濡らした

口ずさむは ジーン・ケリーの“雨に唄えば”
やがてわたしも恋をして雨に唄い
小さく脆く海へ還り
そして雨を唄う人の一部になるだろう






















自由詩 優しい雨 Copyright 川上凌 2013-02-16 00:58:58
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