涙の落ちるところ
木屋 亞万

湿った砂の温度
掘るほどに水が滲んで
肌で感じて頬に触れる
潮風の温い感触
乾ききれない海草の匂い
思っていたよりも
生々しい身の回りのすべて
ひりひりと目に沁みるあれこれが
頭を取り囲んで白い泡で思考を埋める
我慢できずに恥部から漏れ出る
白い悲しみの塊がぼとりぼとり
穴の中へとうずたかく積み重なる
ごめんねと思いながら
悲しみを砂に弔って
海に逃げて涙を隠してしまう



ウミガメは卵を産むために生まれてきた産みガメだと
君がしたり顔で言ったものだから
ウミガメのウミは海に住んでるからだろうと尋ねたら
何を言っているのと言わんばかりに鼻で笑って
命という命すべてを生み出してきた海こそ「産み」じゃないのと言う
海は産みで海亀は産みガメで
海はひたすらにあらゆるものを産み続けてきたのだと



わたしたちも海から生まれてきた
涙があふれ出てくるところは
わたしたちの故郷の海だ
どれだけ遠く離れても
故郷の海から滾々と塩水が身体に流れ込んで
目からぼろぼろ零れ落ちるのだ
頭に海ができた男が昔話に出てきたが
心の奥深くに誰もが
未だに海を秘めている



君がこぼした一粒の涙が
落ちるところにある草が
うらやましくてたまらない

君の涙をその身に浴びて
丸い雫を滑らせて
ピンとした曲線を描く
その身体をすすぐのだ

やがて根に落ち着く
君の海の一滴が
その草葉に染み渡り
春には青い花を咲かせる



君の海の水を肺にがばがばと溜めて
生れ落ちる半分私で半分君の命が
うらやましくてたまらない
君の海をその身に蓄え
身体のど真ん中に陣取って
中心と中心を管で繋いでいる
どうあがいても自然な形でつながり切れなかった
一時的な私たちの接続を笑うように
自然な形で生まれ出る
子どもが最初に泣くときに
涙が落ちるこの腕は
強くやさしい海でありたい


自由詩 涙の落ちるところ Copyright 木屋 亞万 2013-02-16 00:10:20
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