君に戦場で会ったなら
まーつん

?

君に戦場で会ったなら
私は君を殺すだろう
そして首をかしげるだろう
君は一体、何者だったのだろうかと

私達を敵と味方に分けたのは
一体なんだったのだろうかと

日本人、という名前の日本人はいなかった
北朝鮮人、という名前の北朝鮮人もいなかった

アメリカ人という名のアメリカ人も
中国人という名の中国人も

何処にも見つからなかった

人は国籍以上のものだ
そして 一つの名前以上のものだ

それは無二の香りを持つ水の湧き出る
尽きることのない井戸のようなものだ

その水をせめてひと口
味あわないうちには
私はその井戸を
塞ぎたくはなかった

君が何者か知りもしないうちに
君を殺したくはなかった

君の生き様が
一片の詩に昇華される前に
その筆を奪いたくはなかった


?


君に戦場で会ったなら
私は君を護るだろう
一人のあきらめた偽善者として
敵弾から同胞を護ろうとするだろう

だが私達は既に死んでいたのだ
顔のない一つの集団となって
個人としての自分を捨てたときに

味方の命を守る為
敵の命を奪ってもいいと
決めたときに

私達の何かが死んだのだ

私は君を愛しているが それ故に君を憎むだろう
私達が取ってしまった 選択の故に
私達のすべての指がかけられた 引き金の冷たさの故に
苦しみを分け合った全ての戦友を 心のどこかで憎むだろう

その時愛と憎しみは 見分けがつかなくなるだろう

一つに溶けて流れるだろう

だが
降り積もる歳月が地層となり
戦場の記憶が薄れかけ
人々の日々の営みが
再び花を咲かせたとき

その蜜は
乾き切らない血の匂いを
芳香の裏に漂わせ
老いた私を怯ませることだろう


いつまでも
 
そう
いつまでも


慄き続けることだろう








自由詩 君に戦場で会ったなら Copyright まーつん 2013-02-15 08:46:13
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