看取り(1)
吉岡ペペロ
託児所に息子を迎えに行くと新しく来たと思われるこどもにジロジロと見つめられた。
ぼくが肌の色のちがうアフリカ人だからだ。
コンビニの明かりに照らされたりしながらぼくは息子と家路をたどる。
息子はぼくよりも上手な日本語できょうあった出来事を喋り続けていた。
職場でも痴呆のおばあさんに話しかけられ続けた。
すき焼き食べに来てください、
目があうたびそのおばあさんはそう言うのだった。
息子がテレビを見ないともだちについて喋っていた。
ぼくは老人ホームでの便利屋のような職を得た。
介護福祉士たちの補助を行うのにぼくの体力は申し分なかった。
家に戻るとふたりぶんの夕食をつくった。
タイマーで炊いておいたご飯をボールに入れてそこに卵をふたつ割った。
それをかき混ぜ油を敷いたフライパンで押し付けるようにして炒めた。
裏返して炒めているあいだに大皿をだし皿にシナモンを振った。
皿のうえに茶色いまばらな模様ができた。そこに炒めたものを載せた。
息子とふたりでテレビを見ながらそれを食べた。
シナモンの味の濃淡が相変わらず美味しい。息子も何食わぬ顔をして食べている。
ぼくはテレビに息子をかまわせていた。
そうでなければ自分の着替えも洗濯もその取り入れも食事の支度もできなかった。
それでもぼくと幼い息子はきっちりと生きていた。
きっちりと生きているという事実だけがぼくの日々の空白を埋めていた。