あたたかいスープ
はるな



わたしはひとを殺せます
ひとを殺すためだけに
ひとを殺すことが
できます

転んだひとに手を貸すことができます
ひとつずつ減ってゆく善意の
ひとつになることができます

あたたかいスープをつくれます
ここではだれも凍えて
いないけれど
スープをつくることが

わたしは笑うことができます
半月のように目を細め
口角を上げることだけでなく
たのしいとおもい
うれしいと思う
そんなふうな感情も持てます

くらい部屋で
電気スタンドのスイッチを
いれることができます
電池が切れていたら
お金をだして買うことも
できます

でもわたしは
S極とN極の
明確なちがいを説明することができない
獣の血抜きを
見たことはない
それどころか
感情を満足に説明することも
できない
電話を取ることはできても
その声がだれのものかを知らない
だれの声かを知っても
あなたを知ることはできない
死んだひとに
会うこともできない
つよくなりたいと思うが
それがどういうことなのか
わかったためしがない

わたしはひとを殺せます
あたたかいスープと
電気スタンド
転んでいるひとに
手を貸すことができます
笑うことができるし
たのしがったり
うれしがったり
することができるが
それがどういうことなのか
いったいどういうことなのか
わかったためしがない




自由詩 あたたかいスープ Copyright はるな 2013-02-11 08:36:38
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