福音
マチムラ
しだいに平らかになっていく墓土
それを横目に私は育った
古い先祖の亡霊と共に
農家の閉ざされた奥座敷で
手足ばかりを黒光りさせていた祖父は
私ひとりの暗い人間準備室の棚に
「元教師」とラべリングし
わざと鈍く光らせた石英の神経ごと
エチルアルコールのたゆたう夢を
ひとつの冴え冴えとした
生物標本にしようとしたのではなかったのか?
充分に冷やしきれていない冷酒が
満たされない渇きに沸騰する
脳幹神経細胞にいきわたるとき
生物であろうとする胃から腸から
からだを空疎に空疎にして
型枠だけを人間にとどめながら
しだいに生物標本へ近づけていったのではなかったのか?
その日、私の空腹は冷蔵庫まで這ってゆき
成長に見合うだけの食べものを
無関心への復讐のように貪っていた
そればかりの私に
なぜこんなにも見せつけるのか?
しだいに平らかになっていく墓土を
その上に生える二十五年目の南天が
木々の木漏れ日の下を
なぜこんなにも赤々としているのか?
そこに降りた朝露が
なぜこんなにも光ばかりを集めているのか?