有明の月
オキ
晴れ着すがたの楚々とした女が、子犬を連れて小股で
歩いてくる。
子犬に合わせるから、小股になるのか、晴れ着の裾に
引っ張られるから、小股になってしまうのか。
犬はいつにもなく、飼主と歩調が合っている。それが
嬉しく、女の白足袋から、着物姿を愛でるように視線を
上げていく。
何と飼主の頭には、自分のと同じ髪飾りの赤いリボン
がついている。犬はあまりのことに驚いて、というより
は、愛されている余裕から、視線を更に上げていった。
空には有明の月がかかっている。月を遮るように鳶が
舞っている。
その鳶が、頭を傾げて犬を見た。いや晴れ着の女を見
たのか。女の髪飾りのリボンを見たのか。犬の頭の赤い
リボンを見たのか。
子犬は判別できないもどかしさに、駄々っ子のように
路面に前足を突っ張る。そこで、ぶるぶるっと胴震いを
した。
ーリリィちゃん、どうしたのよー
歩みにブレーキをかけられた晴れ着の女が、犬のロー
プを引っ張る。
瓦屋根の先端に留まる風見鶏が、子犬を見てカラカラ
ッと笑った。
おわり