有明の月
オキ



 晴れ着すがたの楚々とした女が、子犬を連れて小股で
歩いてくる。
 子犬に合わせるから、小股になるのか、晴れ着の裾に
引っ張られるから、小股になってしまうのか。
 犬はいつにもなく、飼主と歩調が合っている。それが
嬉しく、女の白足袋から、着物姿を愛でるように視線を
上げていく。
 何と飼主の頭には、自分のと同じ髪飾りの赤いリボン
がついている。犬はあまりのことに驚いて、というより
は、愛されている余裕から、視線を更に上げていった。
 空には有明の月がかかっている。月を遮るように鳶が
舞っている。
 その鳶が、頭を傾げて犬を見た。いや晴れ着の女を見
たのか。女の髪飾りのリボンを見たのか。犬の頭の赤い
リボンを見たのか。
 子犬は判別できないもどかしさに、駄々っ子のように
路面に前足を突っ張る。そこで、ぶるぶるっと胴震いを
した。
 ーリリィちゃん、どうしたのよー
 歩みにブレーキをかけられた晴れ着の女が、犬のロー
プを引っ張る。
 瓦屋根の先端に留まる風見鶏が、子犬を見てカラカラ
ッと笑った。
                   おわり


自由詩 有明の月 Copyright オキ 2013-02-09 23:15:34
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