カチコチ
赤青黄
トイレに詰まった
黒いブツを
これまた黒い
そして細長いスッポンで
グイと押し込んだら
今度はスッポンが取れなくなって
あわてて塩酸で溶かそうとしたら
便器を溶かしちゃった上に
塩酸を痛がった水が氾濫を起こして
逆流ならぬ逆襲を始める
「お前のいろんなものを受け止める生活は
もうこりごりだ」
そんなこといわないでよ
は通じない
水はトイレの個室を飛び出し
家の中を蹂躙する
二階は無事かと思いきや
あらゆるごみの破片を吸収した
水男が
階段を登っていく姿を見て
こりゃおおごとだと思い
あわててキッチンから包丁とナイフそれから果物と果実を持ち出して
いそいそと二階に向かった
お気に入りのしーでーはもう鼻水でぐちゃぐちゃ
代々受け継がれてきた家宝の壷はパリンパリンとなり
床の上でぷかぷかしていた
幸い
他の家族は外出していて
誰もいなかったから
まあこれが不幸中の幸い
というやつだろう
まあそれはともかく
今は奴を食い止めねば
まずはあいつが一番いそうな二階のトイレに向かう
あのトイレのトイレットペーパーは
バアチャン用に
ダブルロール+ラベンダー
のいいにおい
の奴を使用しているのだ。
奴が食いつかぬ筈がない
がちゃっ
アレ?
いない
奴はまだここに来ていないようだ
トイレットペーパーは巻き取られた痕跡がないし
この部屋だけ水浸っていなかった
そうか、奴は二階のシャワールームで
ゴミを落としにいったんだな
そうであれば
いずれここに奴はくるであろう
だったら待ち伏せてしまえばいい
「シンジーご飯よー」
このタンミングでご飯かよ
「もうちょっと待ってー今取り込み中」
「またそうやってゲームばっかりしてるんでしょう
そんなゲームばっかりしてないで、勉強の一つや二つ」
「いやいやこれゲームじゃないから違うから」
「何?親に口答えするとはいい度胸さね、今日と言う今日は
その身引っぺがしたるワイ」
ドカドカドカドカ
おいおいおいおい、なんだこの展開!
「今トイレはいってるんですけど!」
「うっさいだまらっしゃい」
がちゃっ
「しんじーご飯できたわよ」
思わず果物ナイフを僕は投げた
あいつは母でもなくばあちゃんでもなく
母に乗り移った水男であった
僕は唾を吐いて目潰しを食らわせた後
階段を急いで駆け下りた
いまや家の中は大洪水だった
あらゆる引き出しからは水がとめどなく溢れ
あらゆるこけしの口からはグレープジュースが流れ出していた
早くどうにかしないと
今度は玄関の工具置き場からマッチを取り出した
だが水でびちょびちょだった
次にチャッカマンを取り出した
もうこれしかない
しんじーごはんよー
僕は秩序が失われたこの家に唯一まとも存在
言い換えればこの世界を救うことを運命付けられた
勇者であった
滑る階段を
スリッパを履きながら
なんとか登りきり
奴の座する僕の部屋てへと
全速力で向かう
途中奴か仕掛けたトラップの数々を包丁とチャッカマンで
やっつけながら
部屋に入るとそこには
四天王ならぬ
父
母
姉
大姉
が君臨していた
「ばあちゃんと妹はどこだ!」
「ばあちゃん閣下は妹姫様との婚約の儀の最中、ここを通す訳にはいきません」
「ならば力ずくでここを通るのみ」
戦いが始まった
母親の繰り出す鼻水アッパーは勇者あばらを一本砕いたが
すかさず果物で体力を回復
父親の水虫ブローはすんでの所で回避。あたったら即死だ
姉と大姉による合体奥義レモン・クロスカウンターは
まともにくらうもののすかさず果実で回復
だが、これで回復アイテムは無くなった
一見追い詰められたかのような勇者であったが
逆に追い詰めたのも勇者であった
攻撃を避けながら敵を一点り箇所に集まるように仕向けていたのである
「きまった」
勇者は家族の一段の中にチャッカマンをほ放り込んだ
勇者は二階のリビングに到着した
「お兄ちゃん、さっきから何暴れまわってんの?もうご飯だよ」
あれ?
僕は一瞬なんのことか分からなくなって
あたりを見回した
全てが何もかも
元通りになっていた
水はどこにもなく
あのおぞましい
の一言で片付けられる世界は
もうどこにも無かった
僕は包丁を放り出して
妹の待つソファーに腰掛けた
腋を見れば、家族みんながテーブルに座り、もくもくとご飯を食べている
そうか
いつもどおり
妹だけ早く食べ終わり
他の皆は
まだご飯食べてるのだ、と
「早く食べないと、ご飯さめちゃうよ」
「ああ、うん」
僕はいそいそと席に座り、橋をとった
「いただきます」
ああ、こんな挨拶をしたのはいつぶりであろうか
さて、まずは何を食べようか
と思い迷い橋をしていたら
本当に何から食べてよいのやら
本当に困っていまった
だって
みんなおかずが
ぐにゃぐにゃ蠢いていたから
「きぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
妹が背後から襲ってきた
僕は椅子を横に転がしてこの攻撃を避けると、テーブルは木っ端微塵に砕け散った
女の一撃は
いつの時代も恐ろしいものだ
「はぁはぁ」
僕の手元にはもう武器が残されていなかった
ただ一つだけを残して
だが、それは
チャンスは一度きりしかない
とても危険な賭けのような攻撃
かっこよく言えば諸刃の剣であった
だが、やるしかない
僕は走り出した
妹に向かって
僕は取り出した
ポケットの中からある何かを
妹は僕の襟首を右手でつかみ
空中に釣り上げた
そのまま僕のことを丸呑みしようと
口を盛大にあける
いまだ!
僕はその口めがけて
氷を一つ
あらん限りの力で
なげつけた